・ドクター大村

何ごとも物事の推進役と言われる人物がいるものである。今回のトリアージでは静岡市医師会の大村純医師がその人である。大村さんは整形外科医であり医師会の理事も務める。
ドクター大村は何かにつけ話が早い。私が平成13年の10月にお会いしたときには、すでにトリアージ訓練の司会進行台本がすべてそろっていた。角封筒から取り出されたA4
版の書類にはケガ人に扮する住民の方たちのメイクアップ法、ケガの程度、運び込まれたときの台詞も出来上がっており、訓練がどこで行われても着実に成果が挙げられるよう整えられていた。 「どこでも、誰でもすぐ出来るのがミソです。」ドクター大村はさりげなく言う。が、何ごとも大きな枠組みと、そこで行われる内容が具体的に記されるのはギリギリのことである。
それを診察時間の合間に書いてしまっていたとは驚きである。さらにそれらをセットにして封筒に納め、必要に応じて手渡せるようにしている。マスコミが来ればタグと台本の入ったセットを「はい」と渡し、訓練となったら台本を参加する町内の人たちに渡すという次第である。
ことほど左様に仕事の速いドクター大村ではあるが、私の申し出には一瞬とまどった様子だった。
トリアージを紹介したビデオはすでにあり、それを使った市民向けの講習会をするところまで準備は整っていた。ドクター大村とお会いしたのも、そうした講習をお医者さん自らが行う必要性を取材するためだった。
見せていただいたビデオはトリアージが何たるかを簡潔に伝えている。敢えて注文を加える必要性はない。しかし私はこう申し上げてしまった。「先生の説明がなくても分かるビデオも欲しいですね」。
マスコミに長くいると、つい相手の状況を配慮することなく失礼なことを言ってしまうことがある。そのビデオの制作者は目の前のドクター大村であり、それもご自身で撮影から編集まで一人でまとめられた労作なのである。部外者が軽々しくリテイクを口にするなど、本来なら慎むべきことだ。しかし、言ってしまったのである。
私には確信があった。この内容にナレーションをつけて、どの場面を注目して欲しいか注意を促すと、きっと夢中になって見られる教材が出来ると。
さらに、ケガ人に扮した町内の方にトリアージ訓練に参加して何を学んだが話してもらうと、誰でも感じるトリアージのツボが明快に伝わるように思えたのだ。もしかするとこれは"参加体験型社会教材"になるかもしれない。
静岡方式と呼ばれる市民の災害意識高揚の提案に育つかもしれない、私はそう思ったのだった。

そこからが実は大変だった。市民に講習会の案内は配ったものの、トリアージをしてみたいと手を挙げてきた町内はまだない。どこかに頼んで撮影だけの協力をお願いしたものかどうか、それもわざとらしく講習の主旨に反する。どうやって撮影にこぎ着けるか・・・。
ところが、そこからがドクター大村の本領発揮なのである。電光石火なのである。
静岡市内の町内会で自主避難訓練などに積極的な地域があり、そこの町内会長さんと面識があったことから話を持ちかけると、驚いたことに間をおかず、快諾の返事が返って来た。大岩2丁目町内会。ここがトリアージ訓練の撮影に協力してくれるというのである。
大岩町は静岡市内の中心地からやや北にある住宅地である。戦火を免れたこともあるが戦後の復興期には木造の住宅が建て込み、そのまま50年が経ち、震度6と想定される揺れには弱い町の構造になってしまった地域でもある。
住宅地イコール木造家屋密集地、という設定は、東海地震では大きな被害が予想される場所でもあり、町内会としては家屋の倒壊と火災の発生からどのように町を守るかがテーマになってきて経緯がある。
もし家がつぶれたら、下敷きになったら。お医者さんは本当に助けてくれるのだろうか。
どこの病院に行けばいいのか。そんな不安が町内の人たちにはずっと引っかかる課題でもあった。トリアージに参加することは、目の前の不安から抜け出す第一歩になるかもしれない。
町内会長さんはそのように判断したのだった。
・撮影は2月3日に城北公園で
昨年の12月上旬には新しい撮影の日程と陣容が決まりました。撮影は2月3日とし、ご協力いただく医療関係先のご了解を頂いています。場所は城北公園(大岩、市立図書館横)と決まりました。時間は10時から、ケガ人に扮する住民の方々はメイクの時間を見込んで9時の集合となりました。
ところで実際に訓練を行うにはどのくらいの関係者が必要か、想像がつくでしょうか。
少なくとも前回、大村先生が撮影したときは、次のような団体の参加があって訓練は実現しています。
日赤病院をはじめ、静岡市医師会、歯科医師会・薬剤師会・看護協会などです。
考えてみれば容易に分かるれことですが、お医者さんの数、それをサポートする看護婦さん、薬に関しては薬剤師の方々、緊急医療は外科ばかりではありませんから歯科の先生。実に多様で、現実とはそのように様々です。そうした方々のご協力で撮影は実現するのです。
もう一つ。ケガ人に扮するメイクを専門とする会社もあります。単に扮するばかりでなくケガの程度や部位に忠実でなければなりません。それを再現してもらいます。
そして撮影チームです。当日の模様は何台かのビデオカメラで撮ることにしています。
中心となるカメラは患者さんとお医者さんの会話を、状況を捉えるカメラは人の位置と動きが分かるように引き気味でおさえます。さらに、状況の周囲には次への展開を示唆する動きが必ずあります。別のカメラがそれをフォローします。
撮影にはNHKで長年制作現場にいたカメラマンが当たります。多くの特集番組や海外撮影を経験したベテランで、人の心情を動きの中に描く手腕は、こうした状況描写には欠かせません。
演出は私(小林一郎)が務めます。報道番組の制作でもあり、また演技に近い要素もあり、ドラマとドキュメントの中間とでも呼べそうで、気分としてはとても新鮮です。
しかし描くのは人。たとえ演技に近くても必ずその人の普段の姿が出ますので、そこを大切に撮っていきましょう。
2月3日、ご期待ください。