トリアージ(災害医療入門) アサヒカコー(株) 小林 一郎
■ 要警戒! クラッシュ症候群
東海地震、東京直下地震で懸念されるのは津波被害ばかりでなく、住宅密集地での家屋倒壊による死傷です。
阪神・淡路大震災では犠牲者のほぼ7割が圧死だったとされています。
救出は町内の人たちによって懸命に行われたものの、後の医療措置が確立していなかったために救出まで気丈に振る舞った多くのケガ人が収容先の病院で命を落とすケースが多発しました。
クラッシュ症候群と言われたこの疾病は治療法がわからず、担当の医師たちを大いに悩ませました。
本来、医療は患者のために最大限の措置を施すべきはずが、地震によって医療器材を失い治療スタッフも足りず、現場を預かる医師たちは失望感の中で最善を尽くすことを使命に闘いました。
原因が分かったのは治療の過程でした。
これは医療従事者にとって阪神大震災の大きな教訓となり、いまでも最適な治療法が模索されています。
それほどクラッシュ症候群は時間との競争を強いられ、また様々なに制約された医療環境の中で取り組まなくてはならないやっかいな疾病なのです。
災害では仮の話はありません。
しかし阪神大震災の際、医療関係者にこの症状の重大性と救出から搬送・処置に至るスキーマが思い描けていたとしたら、人命の多くは無駄にならなかったかもしれません。
だからこそ、これは次の来るべき地震ではどうしても活かさねばならない課題となっているのです。
クラッシュは最初の2〜3時間が勝負とされています。
迅速な救出、その場での適切な措置、医療機関への搬送、人工透析等。
ここまでをいかに時間的ロスを少なく地域住民と地域医療機関が連携できるか、そこにかかっている。
では、その正体とは一体どのようなものなのでしょうか。
要約すると次のようになります。
<クラッシュ症候群の正体>
1. 血が通わなくなると、その部分(特に筋肉)は死ぬ。
死んだ組織から毒素が体に戻って、心臓を止めたり、
腎臓を詰まらせて、尿が出なくなり、死亡する。
死んだ組織から毒素が体に戻って、心臓を止めたり、
腎臓を詰まらせて、尿が出なくなり、死亡する。
2. 瓦礫の下から救出され、挟まれていたところが
開放されたときから、クラッシュは始まる。
開放されたときから、クラッシュは始まる。
3. 劇症型は、救出された直後に心停止する(高カリウム)。
再還流症候群と呼ばれ、阪神で沢山報告された。
再還流症候群と呼ばれ、阪神で沢山報告された。
4. 病院にたどり着いたものが、クラッシュ症候群と呼ばれる。
[まとめ: 静岡県立総合病院 安田 清 医師]
[解説]
一冊の報告書があります。
「集団災害医療マニュアル」と題された本には副題が付いています。
「阪神・淡路大震災に学ぶ新しい集団災害への対応」。
この本は阪神大震災の際、医療機関へ運ばれた重症の患者の医療記録を精査して、そこから酌み取れる課題をまとめたものです。
大阪府立病院のドクターを中心に阪大、厚生省などの医療スタッフが協力して調査と分析を行いました。
冒頭のクラッシュ症候群対策がなぜ大事なのかは、この本の詳細な報告から読みとれるもので、以下に示されたデータからも一目でその特徴が分かってきます。
クラッシュでは、病院に搬送された患者・372人のうち50人が亡くなっています。
他の外傷と比べてみても圧倒的に死亡数が勝り、死亡率も図抜けています。
この原因は、一つには治療法が確立していなかったこと、医療機関によって治療に差があったことなどが挙げられます。
報告書にはそれらの裏付けとなる治療内容や病院側の対応なども詳しく調べられています。
それを見ていくと、クラッシュ症候群がいかに致死的であり、治療の困難な外傷であるかが浮かび上がってきます。
治療に立ち合った医師たちの中には、治療の端緒につく前に目の前で息を引き取っていく光景に絶望感を感じた人もいたといいます。
多くの場合、確立した治療法があり、その手順に従って時間と競争するのが外科的措置の一般的な形です。
しかしここでは死に至る原因が分からず、したがって治療法も見つからない状態で患者と向き合っていたことになります。
多くの難病が克服されようとしている現代、外傷であるクラッシュ症候群が災害時であるばかりにそれが足かせとなり、医学的にベストをつくせない状況に置かれたのです。
その事実、私たちを混乱させます。
報告書はそれでも、前向きに立ち向かえる方法があるのではないか指摘をゆるめません。
外傷が循環器の疾病を招くのであるならば、その分野の持ちうる最高技術を駆使すれば対処は可能でしょう。
現状で最も有力な方法が応用できるはずだからです。
阪神・淡路大震災から10年を経て現状の課題は次第に明らかになってきました。
しかし課題のままにとどめることは解決への序章とは言えません。
「時間、分を急ぐ」状況の中で、どんな具体論が実効性を発揮するのか、何をすべきなのか、どうするのか、誰が・・。
しっかりとした治療のためのディレクションを示す時と言えます。
しっかりとした治療のためのディレクションを示す時と言えます。
おしまいに、クラッシュ症候群の見分け方をご覧頂きましょう。
これだけの兆候から、患者が致死的な疾病に見舞われていることが医師や救出担当者に分かるのか、あなたならどう判断するでしょう。
これだけの兆候から、患者が致死的な疾病に見舞われていることが医師や救出担当者に分かるのか、あなたならどう判断するでしょう。
<クラッシュ症候群の見極め方>
・ 2時間以上ものの下にはさまれていた
・ そして麻痺がある
・ 本人の意識は極めて正常
災害現場では時間を追って救出の形が変わっていきます。
上記の所見を最大限に尊重するならば、災害の発生から3時間を限度として救出の可能性も評価も変わらざるを得ません。 これはケガ人が死者に変わっていく可能性を暗に示唆しているからです。
上記の所見を最大限に尊重するならば、災害の発生から3時間を限度として救出の可能性も評価も変わらざるを得ません。 これはケガ人が死者に変わっていく可能性を暗に示唆しているからです。
クラッシュ症候群は発災からの時間とケガ人の様態を元に判定し、「出来るだけ早く人工透析」へと進むしか現状では道がありません。
それほどに切迫した外傷が実は災害時には起こりうるという事実が巨大災害では待っているのです。
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メール: homepage@asahikako.jp
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