アサヒカコー(株) 小林 一郎

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■ 防災訓練、良いとこ取りの薦め
9月が地震防災月間だからなのでしょうか、地域での自主防災訓練が各地で行われています。
昨日(9/9)も都内の荒川区でユニークな災害想定訓練が行われました。
荒川区西尾久四丁目 訓練を前に整列する隊員 川島一太隊長
荒川区西尾久四丁目     訓練を前に整列する隊員  川島一太隊長
地域を守るのは自分たちである。 そのためには地震発生後、一時間以内に倒壊建物からケガ人の救出を行う!特にこの地域では、築年数の経った家が多く、お年寄りの孤立や散乱した家具などの下敷きが予想されるからです。 自力で隣近所を救う。 それが西尾久四丁目町内会レスキュー隊の理念です。
この町内では年に四回の訓練が行われています。 特定のグループにいつも負担がかかってはならないとの配慮から、訓練は受け持ち内容ごとにローテンションを組み、順番に回しています。 設立から11年、訓練内容の精度も機材の扱いも向上しました。 最近ではこの訓練に地元警察も加わり、それぞれの技量が披露されています。 今回も尾久警察署との共同訓練となりました。 指導ではありません。 対等の関係、つまり共同なのです。 それほど西尾久四丁目の区民レスキュー隊にはノウハウと独自技術があるのです。
[訓練内容]
状況設定と行動を見てみましょう。
[地震と同時に火災が発生し、崩れた木造家屋の中にお年寄り二名が閉じこめられた]
[隊員は各自の家庭が無事であることを確認後、直ちに機材庫に集合し救出に当たる]
発煙筒がたかれ火の手が上がります。
第一陣は消火班です。大型消火器が持ち込まれ、初期消火に務めます。
火は消えたものの、建物の入り口は壊れた屋根や壁材などで塞がれていて、入り口が分かりません。
第二陣は障害物の除去にあたります。 動力式チェーンソーが登場します。 一人で持てるほどの大きさで、ループになったチェーンが木材を次々と切断していきます。 しかし取り除かれたのはあくまでも外側部分。 開口部は出来ましたが、その奥にはコンクリートの壁が立ちはだかっています。 それを今度は壊そうというのです。
消火班 木材を次々に切り崩す 状況指示をする川島さん
消火班                    木材を次々に切り崩す     状況指示をする川島さん
第三弾、側壁破砕。 ガソリン式発電機で電力を起こし、コンクリートドリルで壁を強烈にアタックします。 ドドッ、ガガッという音と共にコンクリートは破片と化していき、室内が見え始めます。家具がいくつも倒れています。 どうやら、その下のすき間にお年寄りがいるようです。 急がねばなりません。
第四弾、室内家具の排除。 重い家具は人力では無理と判断して、ここではリフト車を使います。 次から次へと飛び道具が登場してきますが、借り物は一つもありません。 チェーンソーやドリル、油圧ジャッキも全部自前です。 リフト車は町内の隊員が持ち寄ったもの。 西尾久地域はまだ町工場が沢山あり、印刷所やプレス工場、金属の加工場などがあります。 重機が揃うのも、この町の特徴、強みであるのです。
コンクリートを砕く 金属もカッターで切断 家財をリフト車で除去
コンクリートを砕く         金属もカッターで切断      家財をリフト車で除去
さて、折り重なって倒れている家具類は、リフト車が次々と抱え上げ、戸外に運び出していきます。 人が動けるスペースが室内にやっと出来上がりました。 隊員がお年寄りに向かい声をかけていきます。 「大丈夫ですか!大丈夫ですか!」。 想定ではまだ家具や細かいもののすき間に埋もれていることになっています。 そこに、今回は警察犬がケガ人の発見に当たります。 第五弾です。 つい先日、新潟県で行われた捜索とまったく変わりありません。 臭いを頼りに警察犬は埋もれた老人を懸命にさがします。 訓練とは言え、本番さながらの緊張感が会場に漂います。
警察犬がけが人を捜す 待機するリアカー部隊 この家から救出する
警察犬がけが人を捜す    待機するリアカー部隊     この家から救出する
第六弾、リアカー担架スタンバイ。 救出されたお年寄りはまだケガの程度が分かりません。 立って歩けるのか、意識はあるのか、声をかけて確認します。 歩外傷があるようならリアカー担架に乗せてただちに救護所へ搬送します。 この役目は婦人部隊の仕事です。 リアカー担架にはちょっとした工夫がしてあります。 担架を人が持って運ぶのでは労力があまりにかかりますが、リアカーに載せて転がせば力はずっと少なくてすみます。 それを婦人部隊に受け持ってもらうのです。 ケガ人はアルミ製のリアカーの上の担架に乗せられ近くの中学へ向かいます。 そこは救護所になっていて、当座の処置を行えるようになっています。
建物から無事救出 アルミ製リアカーで運ぶ 心肺蘇生も訓練では行う
建物から無事救出        アルミ製リアカーで運ぶ   心肺蘇生も訓練では行う
ここまでが発災・救出訓練の内容です。
一幕六場。 地域の弱点をよく研究し、考えられたシナリオです。 その前提は、消防も警察も応援には来てくれないという認識です。 だから自分たちで出来ることを考え出し、それを実行する知恵を身につけていこうということなのです。
あまりに出来過ぎでしょうか。機材があるからここまで出来るのでしょうか。
そうとも言えません。 区民レスキュー隊は阪神大震災の直後に作られた自主防災組織です。 映像で見る被災地の様子は、場所が違えば自分たちも同じではないのか。 木造の家、密集した地域、狭い道幅。そんな思いが地域の安全と備えを考えさせるきっかけになったと言います。 組織作りのための拠出金を募りました。 それを元に機材を購入し、自治体からは自主防立ち上げの助成を受け、さらに充実した装備に整えていきました。 しかし、会員一戸あたりの負担は数千円にもなりません。 それでもやる気と工夫を惜しまなければ、ここまで出来るのです。
災害医療を加えよう!
良いところ取りの勧め。 実は、ここにご紹介した活動がさらにパワーアップし、より幅広い世代に支持される方法があります。 もう一つの「良いもの」とジョイントさせるのです。 それは何かと言いますと、「災害医療」です。
西尾久四丁目の訓練を例に取ると、第六弾の途中まではそのままです。 つまり、ケガ人の発見まではかわりません。
災害医療の視点を加えます。
東京で今後予想される地震は二種類あります。 関東大震災の再来とされるM8クラスの海溝型地震。 近代都市が経験したことのない地震規模です。 もう一つは、阪神大震災のようなM7.3クラスの直下型地震。 震度は6強から7。 予知不能な突発型です。 今、警戒を強めているのは直下型で、少なくとも発生想定地域は都内の三カ所に及びます。 東京枠北部、多摩地域、都心部。 そこを予告なしに直撃したら・・・。
そこで、単純な工学的な被害ばかり考えるのではなく、生身の人間はどのくらい傷つき、どのくらい命を奪われるのか、それを考えなくてはなりません。 東京都には直下型地震での被害想定が作られています。 それによるとケガ人は15万人以上、死者は7,000人とあります。 しかし、この数字は火災を前提にした比較的限定された条件での見積です。 ケガ人が適切な処置を施されずに大事に至ったり、災害医療の不備から犠牲が拡大することなどは含まれていません。 つまり、災害医療の視点は東京ではまだ無いのです。
西尾久四丁目で行った救出に話を戻します。
震度6強になると、室内で固定されていないものは猛烈な横揺れに吹き飛びます。 神戸では電気冷蔵庫やテレビが部屋を横切って飛びました。 縦揺れは、柱の組み合わせが悪い家では屋根を持ち上げ、次に来る横揺れで足下をすくうように建物をなぎ倒します。 その下に人がいたとしたら。 単なる埋もれた状態ではすまされません。 圧死、物に挟まれたクラッシュ症候群の発症など、死に至る状況が作り出されます。
発生から間もなく発見されて、まだ息があり意識もはっきりしている。 さぁ、重たい家具をどかして自由にしよう。助かるぞ…。
でも、待った!です。 筋肉がものに挟まれて二時間以上経っていませんか?挟まれた先が痺れていませんか?もしそうなら、救出する前にすることがあります。 クラッシュ症候群対策です。 これをしないと、救出後に異変が起きます。 仮に助かっても手足の筋肉を失うことがあります。 外見からは分かりませんが、ケガ人は重傷なのです。
それを救出者が知っていないと貴重な行為が悔いに変わります。 これも阪神大震災で明らかになり、その後、対処法が見つかった疾病です。
[対応]
1.挟まれているケガ人に水を飲ませる。
  発見した時点で、救出作業と同時に大量の水です。
2.縛るのは、挟まれた部位より心臓に近い、腕や足のつけ根です。
  ある程度幅のあるタオルや帯のようなもので強く縛ります。
3.救出したら麻痺がないか確認しましょう。
4.あれば速やかに病院に運びます。その際、リアカーなどの搬送機材があると
  患者にも搬送係にも負担が軽くなります。ただし、1時間以内を目指します。
5.病院は、人工透析のできるところに限られます。
  救出時の状況(麻痺があったこと、救出時刻)などを医師に告げます。
ここまでは、しておかなくてはなりません。
ですから、現場と病院間の相互協力と日頃の連携訓練は必至となります。
[トリアージ訓練のすすめ]
他にもあります。 災害現場は混乱します。 ケガ人の搬送先である救護所も同様でしょう。 誰を先に病院へ運ぶのか。 それを決めていますか?誰が判断し、その指示を出しますか?
こんなことも災害医療ではあらかじめルールとして決めておかねばなりません。 それがトリアージです。 災害時の医療ルール、それを知らずに混乱ばかりが先立つと、阪神大震災の悔いを再現しかねません。
トリアージ訓練はケガの判定ばかりではありません。 地域医療との連携を確かめる機会ともなります。 開業医と総合病院の医療連携です。 前述のクラッシュ症候群で明らかなように、重度の疾病は設備の整った医療機関でなくては看ることが出来ません。 場合によっては被害を受けていない別の地域への広域搬送も求められます。 ですから、自治体相互の協力関係も築いておく必要があります。
静岡市ではそうした災害医療の取り組みを、地域の開業医と総合病院が手を組んで進めています。 静災連という組織がそれです。 静岡市から地震災害時にクラッシュ症候群による犠牲者を出さない取り組みと呼んでもいいでしょう。 7月には、これまで啓発普及活動をしてきたトリアージ活動をNPO組織に模様替えして行うことにもなりました。
「NPO 災害・医療・まちづくり(理事長:安田 清)」がそれです。 筆者もその理事をしています。 災害医療は行動範囲を拡大していくと、それがまちづくりの骨格とも密接なつながりを持つことが分かってきます。 医療の連携しかり、災害の危険をあらかじめ知る学習の必要性しかり。 若い世代を取り込んだ市民防災訓練の実施しかり。 静岡市では静岡大学に災害時の活動を行う防災組織も作られています。 学生諸君が教員たちと協働で地震対策を学んでいます。
ひとくちに「良いとこ取り」と言っても既成の方法論をつなぎ合わせるだけではものにはなりません。 どこに重点を置きたいのか、何を最優先して市民の安全を守るのか、そうした条件設定がまずは必要です。 さらに、より多くの世代が参加できる内容も大切になります。 でも、まずはやってみたくなる中身を作り上げることでしょう。
ご紹介した組織には、人を惹きつける『やりがいのある中身』が揃っています。 一度体験すると、そこから自分で引き出せる次の知恵が見つかっていきます。 それらを積み上げていくと地域医療の充実に市民が参加することが出来るでしょうし、災害救出を官民の連携で行うことも可能でしょう。 知識や技量、ノウハウは人任せではなく、地域や私たちが作り上げ共有する時代になっているのかもしれません。(2007.09.10)